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海外バレエレポート(イタリア)28
ミラノ・スカラ座「オネーギン」

9月21日のスカラ座「オネーギン」の公演に足を運びました。この作品は近年ほぼ毎年上演されており、作品についてはこちらをご参考頂き、今回は今年の「オネーギン」の見所について触れていきたいと思います。

 

 

@Brescia e Amisano, Teatro alla Scala

 

ロベルト・ボッレ(オネーギン)&マリアネラ・ヌニェス(タチアナ)
@Brescia e Amisano, Teatro alla Scala

今回の「オネーギン」が異例だったのは何と言ってもそのキャスト。芸術監督ルグリは、9月14〜26日の全9回公演のうち、ロベルト・ボッレ&マリアネラ・ヌニェスのスターコンビが登場する4回を除いた5公演を、異なる若い4組のカップルに踊らせたのです。オネーギンとタチアナだけでなく、レンスキーとオルガも同様に4組のカップルが作られ、グレーミン公爵は3人のダンサーが順番に踊りました。さらに、オネーギンとレンスキー、タチアナとオルガ、オネーギントグレーミン公爵を日によって掛け持ちするダンサーまでおり、なるべく多くのダンサーになるべく多くの役を経験させる、というルグリの意図はあまりにも明確でした。

 

ティモフェイ・アンドリヤシェンコ(オネーギン)&マルティーナ・アルドゥイーノ(タチアナ)
@Brescia e Amisano, Teatro alla Scala

 

ニコラ・デル・フレオ(オネーギン)&ヴィットーリア・ヴァレーリオ(タチアナ)
@Brescia e Amisano, Teatro alla Scala

 

ガブリエーレ・コッラード(オネーギン)&アリーチェ・マリアーニ(タチアナ)
@Brescia e Amisano, Teatro alla Scala

同じ役を沢山のダンサーが踊ることにより、互いにそれぞれの解釈を見ることで切磋琢磨し、相乗効果が生まれることは想像に難くありません。また、若いダンサーがどんどん重要な役に起用されていく環境は、末端のダンサーも含めたカンパニー全員のモチベーションの向上に繋がります。特に技術面よりも表現力において、その効果は著しいように感じます。元々スカラ座のバレエ団に入団を許された地点で、皆が高いレベルのテクニックを持っています。その中でルグリに自分をアピールするためには、彼の心を何らかの形で揺さぶらなければなりません。その結果が今、カンパニーの多くのダンサーに大きな変化をもたらしています。

 

4組の若手主役カップル合同のリハーサル風景_1
@Brescia e Amisano, Teatro alla Scala

 

4組の若手主役カップル合同のリハーサル風景_2
@Brescia e Amisano, Teatro alla Scala

その筆頭が、一つ前の記事でも触れたプリマバレリーナのニコレッタ・マンニです。行く日付を決めた地点ではまだ細かいキャストが発表されていなかったのですが、今回の「オネーギン」でもマンニがタチアナを踊る日に偶然当たり、前公演のジゼルとは全く異なるタイプの圧倒的な表現力が要求されるこの役を、今の彼女がどのように踊るのか、はやる気持ちを抑えつつ劇場に向かいました。
いよいよ幕が開き、舞台右側に寝そべって夢中になって本を読んでいるタチアナ。「あっ、タチアナだ!」私は心の中で叫びました!纏っている気配は内向的で本好きで純真なタチアナそのもの、そこにはバレリーナ、ニコレッタ・マンニの気配は影も形もありませんでした。一体どうしたことでしょう! かつての彼女は、こんな無垢な笑顔は絶対にできなかったのに!

 

ニコレッタ・マンニ(タチアナ)_1 @Brescia e Amisano, Teatro alla Scala

 

ニコレッタ・マンニ(タチアナ)_2 @Brescia e Amisano, Teatro alla Scala

足を一歩踏み出すだけでも、その動作の前には、迷い、躊躇い、好奇心、はっとした喜び、深い絶望など、何らかの感情がまず先立っているはずです。すべての動作の前には必ず心の動きがある。前回ご紹介したカルラ・フラッチによるジゼルのマスタークラス、また同時期に行われた、伝説のジュリエットと呼ばれたアレッサンドラ・フェリによるマノンのマスタークラス、どちらのレッスンにおいても両者はテクニック的なことにはほとんど触れず、 “一瞬の心の動きを動作に込める”、要約すると内容はその一点に絞られていたように思います。受講した3人のダンサーはおそらく、動機のない動き一つ見逃さず、役の心の微細なひだまでをも感じ取り表現することをストイックに追求する先輩ダンサーの姿勢に、ここまでしなければならないのかと、ある種愕然としたのではないでしょうか。

 

ガブリエーレ・コッラード(オネーギン)&アリーチェ・マリアーニ(タチアナ)
@Brescia e Amisano, Teatro alla Scala

マンニは間違いなく、自分を消し役柄になりきることを習得し、そのことでバレエダンサーという自らの職業を以前よりもずっと深く愛するようになったはずです。舞台上で別人格の人生を生きる。そのことの醍醐味をもはや知ってしまった、そんな気がします。以前の彼女は、観客の存在を常に意識しているように見えました。したがって常に、”〇〇役を踊るマンニ” に過ぎませんでした。ところが現在の彼女の中には観客の存在はもはやないはずです。芸術の高みへと続く“役と向き合う”という、孤独で終わりのない道へ足を踏み出したのだと思います。まだ役から抜けきれず、心ここにあらずというような面持ちでカーテンコールに応える彼女を見てそう確信しました。

 

マルコ・アゴスティーノ(オネーギン)&ニコレッタ・マンニ(タチアナ)_1
@Brescia e Amisano, Teatro alla Scala

 

マルコ・アゴスティーノ(オネーギン)&ニコレッタ・マンニ(タチアナ)_2
@Brescia e Amisano, Teatro alla Scala

 

マルコ・アゴスティーノ(オネーギン)&ニコレッタ・マンニ(タチアナ)_3
@Brescia e Amisano, Teatro alla Scala

このようなダンサーの成長に立ち会えるとは、なんと素晴らしいことでしょう! もちろんマンニだけではありません。アゴスティーノのオネーギンの解釈もとても説得力がありましたし、またコヴィエッロのレンスキーのソロはあまりに情熱的で激しく心を掻き乱されました。

 

マルコ・アゴスティーノ(オネーギン)とニコレッタ・マンニ(タチアナ)、アニェーゼ・ディ・クレメンテ(オルガ) @Brescia e Amisano, Teatro alla Scala

 

クラウディオ・コヴィエッロ(レンスキー)
@Brescia e Amisano, Teatro alla Scala

 

クラウディオ・コヴィエッロ(レンスキー)& アニェーゼ・ディ・クレメンテ(オルガ)
@Brescia e Amisano, Teatro alla Scala

テクニックは最終的には表現の手段に過ぎない。テクニックで感心することはあっても、感動は全く別次元のものです。見終わった後“上手だったね〜、さすがだね〜”などというようなものではなく、無言でじっとその余韻に浸り、その場に立ち会えた幸運を感謝せずにはいられない、そのような体験こそ芸術だと思います。それはバレエだけでなく、音楽は美術を始めすべての分野に共通することです。今現在ミラノに住み、このような多くの才能の開花に立ち会えることにこの上ない喜びを感じつつ、今回は筆をおきたいと思います。

 

ヌニェス(タチアナ) @Brescia e Amisano, Teatro alla Scala

 
記事:川西麻理

 

海外バレエレポート(イタリア)27
ミラノ・スカラ座「ジゼル」

 

海外バレエレポート(イタリア)26
ミラノ・スカラ座「AFTERITE+LORE」

 

過去の海外のバレエレポート(イタリア)1~25はバレエナビに掲載中

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