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海外バレエレポート(イタリア)26 ミラノ・スカラ座「AFTERITE+LORE」

6月29日、ウェイン・マクレガー振付「AFTERITE+LORE」の公演に足を運びました。

 

マクレガーと言えば、2019年5月に女流作家ヴァージニア・ウルフを題材にした「ウルフ・ワークス WOOLF WORKS」という素晴らしい作品を見せてくれた振付家。彼が今回も前作同様、劇作家ウズマ・ハミドとタッグを組み、アレッサンドラ・フェリを起用して、スカラ座のために新しい作品を作ってくれました。

「LORE」@Brescia e Amisano Teatro alla Scala

その注目の作品とは、既に数々の振付家による多くの傑作が存在するストラヴィンスキー「春の祭典」と、その10年後に作曲されたバレエ・カンタータ「結婚」という、2つのストラヴィンスキー作品をセットにしたもの。

 

マクレガーの作品は、現代社会に対する多くの示唆や問題提起が背景にあり、理解するのは決して簡単ではありません。したがって、今回はこの作品の解説に的を絞り、マクレガーの描く溜息がこぼれるほど美しい体のライン、彼独自の洗練されたセンスが隅々まで感じられる舞台、情熱ほとばしるダンサーたちのパフォーマンスは写真でご堪能くださいね。

 

実はマクレガー版「春の祭典」は今回が初演ではありません。2018年アメリカン・バレエ・シアターで初演され、2019年デンマーク王立バレエで再演されました。しかし、その作品が 「AFTERITE」と題されたのは今回が初めてです。また「LORE」は今回スカラ座のために振り付けられた新作。そしてそれら2つに関連性を持たせ、この「AFTERITE+LORE」という公演が生まれました。

「AFTERITE」@Brescia e Amisano Teatro alla Scala

 

まず、これまでの公演ではあくまでも「春の祭典」というオリジナルのタイトルを使用していたにも関わらず、なぜ今回敢えて「AFTERITE」と改名したのでしょうか。マクレガーはこう答えています。≪あまりにも有名な楽曲で、既に観客には「春の祭典」といえばこういうもの、という刷り込みがなされている。まずそれを払拭したかった。さらに、僕は舞台を未来に設定したものを作りたいと思った。だから、既にある数々の素晴らしい“祭典”の後の“祭典”、ということでこのタイトルをつけたんだ≫。

 

「AFTERITE」の舞台は、具体的なある場所をモデルにしています。それは、世界で最も不毛で乾燥した砂漠であり、かつ、その苛酷な気候のために天体観測の聖地とも呼ばれる、チリのアタカマ砂漠。最近では、そのアタカマ砂漠にファストファッションで売れ残った衣料品や古着が大量に廃棄されている写真が流出し、その異様な光景が話題となりました。さらに、このアタカマ砂漠には、ピノチェト独裁政権下で殺された人々の骨が無数に埋まっているそうです。【砂漠化】【環境破壊】【独裁政権】、また【宇宙】といった、現代の私たちを取り巻く様々なキーワードが融合したこの場所が、彼が描いた未来の景色とぴったり重なったことは想像に難くありません。

「AFTERITE」@Brescia e Amisano Teatro alla Scala

 

マクレガー版では、生贄になるのはフェリ演じる”選ばれた者”ではなく、“選ばれた者”の娘。彼女は2人の幼い娘のうち、どちらかひとりを生贄に選ばなければなりません。壮絶な葛藤を経て生贄に選ばれた少女は、舞台左手奥に設置された、植物が生息できる唯一の空間、ガラス張りの箱のような無機質な部屋の中で、得体の知れない煙に巻かれて死んでしまいます。

 

ホロコーストすら思い起こさせるこの演出は、農薬や化学物質など目に見えないものの危険性について訴えた、レイチェル・カールソン「沈黙の春 」(1962年出版)から着想を得たものだそうです。またマクレガーは、シリアで子供が化学兵器によって殺された悲劇にも触れ、当初から「毒性のある化学物質による生贄の死」はこの作品の創作の本質をなすものだったと語っています。そして2018年の初演の後、信じられないことにコロナウィルスのパンデミックが起こるのです。彼が未来を予言したかのように……。

 

そして続く「LORE」の舞台は「AFTERITE」の10年後。それは、ストラヴィンスキーが「春の祭典」の10年後に「結婚」を作曲したことによります。「春の祭典」における大編成のオーケストラによる豊かな音楽は、第一次世界大戦を挟み10年たった「結婚」では影も形もありません。使用されるのは、4人の独唱、4声合唱、4台のピアノ、そして打楽器のみ。作曲家自身がこの作品を雄弁に語る有名な言葉を残しています。『完璧に均一に、完璧に第三者的に、そして完璧に機械的に』。ストラヴィンスキーの当時の心象風景をよく表しています。

「LORE」 @Brescia e Amisano Teatro alla Scala

この作品は2部構成ですが特に筋はなく、スラブ民族の伝統的な婚礼の様々な描写が断片的に続きます。ここで花嫁となるのが、生贄にならずに生き残った10年後の娘。ここでこの2つの作品がつながります。マクレガーは「LORE 」で、『時が経って世代が交代し、“聖なる物”についての解釈が刷新されていく中で、人間の慣習は壊され、変化し、比較され、そして再び生み出される。つまり、既存の何かを捨て、何かを残す。我々はそれを永遠に繰り返し続けるのだということを語りたかった』と述べています。

 

簡単に内容をお伝えしようとしましたが、かなり難解で深い話になってしまいました!  でもそれがマクレガー作品なんです。彼のそれぞれの作品の裏にある膨大な研究と思索、またアーティストとして何かを世に問わなければならないという使命感には感嘆を覚えずにはいられません。

「LORE」 @Brescia e Amisano Teatro alla Scala

 

いずれにせよ、何も勉強せずに見ても、説明できない何かに圧倒され、最初から最後まで、目と心が舞台に釘付けになってしまう凄い作品です。いつの日か何らかの形で、本作品が日本の皆さんの目にも触れる機会があることを心より願っています。

 

記事:川西麻理

海外バレエレポート(イタリア)25
カルラ・フラッチ追悼ガラ公演

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