Facebook

  • スポンサーリンク

  • Twitter

  • 横浜バレエフェスティバル2024公演映像配信
  • 横浜バレエフェスティバル2024公演映像配信

海外バレエレポート(イタリア)30
ミラノ・スカラ座「ロメオとジュリエット」

7月3日、スカラ座の「ロメオとジュリエット」の公演に足を運びました。今回は、日本の皆様にも馴染みの深いケネス・マクミラン版。音楽はもちろんプロコフィエフです。同作曲家によるもう一つの代表作「シンデレラ」も合わせて鑑賞してみてくださいね!

 

@Brescia e Amisano Teatro alla Scala

 

@Brescia e Amisano Teatro alla Scala

 

なるべく多くのダンサーにチャンスを与えるという芸術監督マニュエル・ルグリの方針の元、今回も全9回の公演に以下の4つのカップルがキャスティングされました。①アニェーゼ・ディ・クレメンテ&クラウディオ・コヴィエッロ②ニコレッタ・マンニ&ティモフェイ・アンドリヤシェンコ、③マルティーナ・アルドゥイーノ&ヤコポ・ティッシ、④アリーチェ・マリアーニ&二コラ・デル・フレオ、⑤リンダ・ジュベッリ&ナヴリン・ターンブル。

 

@Brescia e Amisano Teatro alla Scala

 

その中で私が選んだキャストは①のカップル。①と⑤以外は両方がプリンシパルで、⑤は両方がソリスト、①はジュリエットがソリストでロメオがプリンシパルという組み合わせなのですが、ルグリがこの中から初日のキャストとして選んだのが①のカップルでした。将来を期待され、初日のジュリエットに抜擢されたソリスト、アニェーゼ・ディ・クレメンテこそが私の今回のお目当てでした。

@Brescia e Amisano Teatro alla Scala

 

@Brescia e Amisano Teatro alla Scala

 

ディ・クレメンテは脇役では何度も見たことがあり、特に「オネーギン」のオリガ役の彼女が強く印象に残っていました。細く小柄で小動物のような愛らしい顔、少女のような雰囲気はまさにジュリエットそのもの!というわけで、そんな彼女はどのようなジュリエットを見せてくれたのでしょうか?

 

@Brescia e Amisano Teatro alla Scala

 

まず、「ロミオとジュリエット」の舞台がイタリアのヴェローナという町だということはご存じでしょうか? イタリア人にとっては当たり前すぎるくらい当たり前の話ですが、英国人シェイクスピアの作品なので、もしかしたら日本人の中にはご存じない方もいらっしゃるかもしれません。ヴェローナには舞台となったジュリエット(イタリア語ではジュリエッタ)のバルコニーがあり、その中庭にあるジュリエット像は、触れると恋が実ると言うことで、像がすり減ってしまっているほどの人気スポットです。

 

@Brescia e Amisano Teatro alla Scala

 

14世紀のイタリアという全てが石の舞台の中で、鮮やかな衣装の色が際立ち大変美しかったです。通常使用されているものが12色もしくは32色入り色鉛筆のセットだとすると、この舞台の衣装は1000色くらいありそうな、一口に赤といっても一体何十色の赤があるのかしらと思うほど微妙な色合いで、とても感激しました。

@Brescia e Amisano Teatro alla Scala

 

@Brescia e Amisano Teatro alla Scala

 

さて、話をディ・クレメンテのジュリエットに戻しましょう。ジュリエットは初めて舞台に登場する瞬間がすべて。そこにある気配が“ジュリエット”なのか、はたまた“ジュリエットを演じるダンサー”なのか?そこを見ればもはや全てを見たようなものです。ワクワクしながらその瞬間を迎えましたが、残念ながら私が受けた感触は後者の方でした。

 

@Brescia e Amisano Teatro alla Scala

 

ただし、テクニックそして演技ともに非の打ちどころはなく、ディ・クレメンテが本当にジュリエットにぴったりのダンサーだということは間違いありません。ただ、以前にも触れたことがある話ではありますが、「感心」はしたけれど「感動」はできなかった。私の中では、全体を通して彼女はあくまでも“ジュリエットを上手く演じるダンサー”であり、自らの気配を完全に消して舞台上でジュリエットとして生きる、そういうパフォーマンスではありませんでした。

 

@Brescia e Amisano Teatro alla Scala

 

@Brescia e Amisano Teatro alla Scala

 

こればかりは、主役として多くの場数を踏んで、私生活でも豊かな経験を積み、偉大な先人にアドバイスを求め、常に努力し続けるしかありません。その結果ある地点で、水でいっぱいになったコップに最後の一滴が落ち、その瞬間から突然水が溢れ出るようにして変化するのではないかと思うのです。プリンシパルのニコレッタ・マンニはまさにその過程をまざまざと私たちに見せてくれました。彼女がいわゆる脱皮をしたのは、プリンシパルになってから何年もたった後のことです。そういう過程に立ち会えるのも、ホームの劇場を持って頻繁に通うことの醍醐味のうちの一つです。

 

@Brescia e Amisano Teatro alla Scala

 

コヴィエッロのロメオについても触れておかなくてはなりません。背があまり高くない彼は、ディ・クレメンテとの背の高さの差もちょうどよく、うら若き青年のイメージにぴったりでした。コヴィエッロのパフォーマンスはいつも通り完璧。完璧であるのが当たり前であることを常に求められるプリンシパルですが、それをキープするためには一体どれだけの努力が必要なのでしょうか……。

 

@Brescia e Amisano Teatro alla Scala

 

@Brescia e Amisano Teatro alla Scala

 

最後に、個人的にはディ・クレメンテはいつか“本物のジュリエット”になれる気がします。ジュリエットにぴったりの容姿とイメージを持っている彼女、壁を越えればきっとこの役が彼女の当たり役になるはず。首を長くして楽しみに待ちたいと思います。

 

@Brescia e Amisano Teatro alla Scala

 

記事:川西麻理

◆海外バレエレポート(イタリア)29 ミラノ・スカラ座「くるみ割り人形」

◆海外バレエレポート(イタリア)28 ミラノ・スカラ座「オネーギン」

◆海外バレエレポート(イタリア)27 ミラノ・スカラ座「ジゼル」

◆海外バレエレポート(イタリア)26 ミラノ・スカラ座「AFTERITE+LORE」

◆海外バレエレポート(イタリア)25 カルラ・フラッチ追悼ガラ公演

 

過去の海外のバレエレポート(イタリア)1~24はバレエナビに掲載中

一覧へ

  • スマホ広告エリア